前回、別の力と表現しましたが、今回このことについて考えてみたいと思います。
また、アーチェリーを例にします。アーチェリーは屋外行われる競技と屋内で行われる競技があります。屋内で行われる競技の場合、ほぼ無風(厳密に言えば若干の気流や乱れはあると思いますが、矢の速さに比べれば無視できる程度のものでしょう)と言って差し支えないと考えられます。ですから静止した的に的中させるのは射手の技量に掛かっています。正確無比な射手であれば100発100中でしょう。アーチェリではシューティングマシンというのがあります。元々は弓具の試験の為に作られたものだと思いますが、人間に比べると格段に精度の高いシューティングが出来ます。事実、無風であれば100発100中となります。
しかし、屋外での競技では風という攪乱要因が存在します。射手は当然これを織り込んで調整するのですが、風は時々刻々変化しますので100%読み切ることは不可能でしょう。また、矢も完全なる剛体ではありませんので、矢自体が変形(アーチャーズパラドックス)し蛇行しながら飛んでいきます。これらが矢の航跡に影響を与えるでしょう。
さて、ボウリングにもシューティングマシンなるものがあります。理想的な投げ手としてのシューティングマシンをもってしてもボールが同じ軌跡を描くことはありません。ただし、軌跡は異なっても同じ場所に到着する可能性はあります。何故そうなるのでしょうか。ボウリングにもアーチェリーにおける風やアーチャーズパラドックスのような攪乱要因が働くからです。これらは射手や投げ手に全く関係のない純粋な物理現象として働きます。アーチェリーでは矢が離れた瞬間、ボウリングではボールがリリースされた瞬快から、射手や投げ手はどうすることもできなくなってしまうということになります。矢は3次元空間の運動、ボールは着床するまでは3次元空間、着床してからは2次元の平面運動となります。
ボールがリリースされてからレーンに着床するまでの運動の攪乱要因は極小さく無視できる位です。着床時にはボールとレーンの板との衝突現象と捉えることが出来ます。ボールと板の反発係数(ボールの硬さや板の硬さによる)、ボールと板との間の動摩擦係数、鉛直方向の速さ(落下速度)、水平方向の速さ、ボールの回転方向・回転速度等々によってボールの運動が異なってきます。音もせずに滑らかに着床(無音リリース)した場合とドンと大きな音を立てて着床(極端な場合にはバウンドすることも)した場合を比べれば容易に理解できると思います。
そしてボールがレーンを転がっている場合の運動に係わる重要なものはボールと板との間の動摩擦係数、水平方向の速度、ボールの回転方向・回転速度等々が挙げられます。特に、ボールの回転方向や回転速度については、ボールの内部構造は均一なものではなく、コアの形状や質量分布などによる回転運動の変化も大きく影響を与えることになります。
そしてこのボールの運動をより複雑にしているのがレーンに塗布されたオイルの存在です。オイルはレーン全体に均一に塗布されている訳ではなく、レーンの場所毎の塗布量が異なっております。オイルがあるとどうなるか考えてみましょう。一般的にはオイルが多ければボールと板の間の動摩擦係数は小さな値になり、オイルの量が少なければ動摩擦係数は大きな値になります。ご存じの通り動摩擦係数が小さければ動摩擦力が小さくなり、いわゆる滑りやすい状態となります。乾いた道路と水で寝れた状態の道路を比べれば容易に想像できると思いますが、ハンドルやブレーキが利きが変ります。極端な例ではアイスバーン状態の時にはハンドルを切っても直進(曲がらない)してしまい、ブレーキを掛けても滑ってしまいます。
では何故レーンの板にオイルを塗布するのでしょうか。元々は板を保護するためにということであったそうですが、現在では、ある意図をもってそのオイルが塗布されております。オイルが塗布された場所の形状・濃淡(オイルパターン)、全体のオイル量によって、ボウリングの難易度をコントロールできるからです。初心者が多いボウリング場では、ストライクが出易いオイルパターンとなっております。それはどんなに投げてもストライクが出なければ直ぐに嫌になってしまうからです。逆にプロボウラーばかりの試合で易しいパターンを引いたら皆ハイスコアになってしまい、実力の差がつきにくくなってしまいます。
そしてこれをより複雑にしている要素として、ボールの表面に付着(一部はボールに吸収される)することです。ボールに付着した分その場所のオイル量は少なくなります。そしてそのボールに付着したオイルは、オイルが塗布されていない場所に運ばれることとなります。極端なことを言えば、ボールが一度通るとその通り道(軌跡)のオイル分布状態が変化してしまいます。
このようにオイルはボウリングにおいて重要な役割を果たしているのですが、それが大きな攪乱要因にもなっているのです。この攪乱要因が大きければ大きい程、投げ手の実力差が小さくなるとも言えます。逆に言えば、実力差が大きくてもオイルを味方に付ければ実力差を縮めることも出来るし、局所的には逆転できる可能性があるということです。
先の投稿で、初級者であっても中級者や上級者に偶にではありますが勝てる希望があると書きました。これは何時も同じところを投げているとしたとき、オイルが初期の分布から変化し、ポケットが丁度自分が投げているラインと合致した時ハイスコアを出すことがあります。端的な例では、1ゲーム目160ピン、2ゲーム目220ピン、3ゲーム目120ピンのようになるケースです。同じところを投げていても偶々の単発ストライク、2ゲーム目だけ連続ストライク、3ゲーム目は1ゲーム目と同様もしくはスプリットが多くなるといった流れになろうかと思います。これもレーンのオイル変化のなせる業です。偶々2ゲーム目に自分に合ったオイルになってくれた結果で、自らアジャストしてハイスコアに出来たのではありません。
しかし、このようなことがあるから長続きするともいえるのではないでしょうか。事実私もそうだったのですから・・・。
とはいっても、上級者は投げ手の実力もさることながら、オイルを味方につける術を身に付けております。というかそれを身に付けているからこそ上級者と言われるのだと思います。
また、長くなってしまいましたので、今日のところはこれ位にしておきます。
<参 考>